——「痛む場所だけではなかった」整体的アプローチの全体像
「ペットボトルが開けられない」
「朝になると指が固まって動かしにくい」
「軽い物でも持つと手首に響く」
腱鞘炎のつらさは、生活の小さな動作が思うようにできないことにあります。
今回ご紹介するのは、そんな状態から 約3週間で日常生活レベルまで改善したケース です。
ポイントは、一般的に言われる “使いすぎ” だけでは説明できない 背景の要因 を見つけ、そこへ丁寧にアプローチしたことでした。
腱鞘炎は「痛む部分を揉む」だけでは改善が進まないことがあります。
それは、腱が通る道(腱鞘)や前腕・手首のバランスが乱れたまま、摩擦が残ってしまうためです。
ここでは、実際の経過を踏まえながら、改善に至った理由を分かりやすくまとめていきます。
目次
■ 来院時の状態——“握る”という動作がすべて痛い
来院されたのは、手をよく使うお仕事をされている方でした。
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ペットボトルのフタが開けられない
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朝の指のこわばりがひどい
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親指側の手首に鋭い痛みが走る
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握力が入らず、物が滑りやすい
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ホッチキスや筆記がつらい
いわゆるド・ケルバン病(親指側の腱鞘炎)に近い状態で、
検査をしていくと次の特徴が見られました。
■■ 1:腱が“浮き上がっている”アライメントの乱れ
腱はトンネルのような腱鞘を通って動きます。
しかし疲労や反復動作が重なると、腱がわずかに浮き上がり、摩擦が増えることがあります。
この方の場合、
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長母指外転筋・短母指伸筋の腱がわずかに外側へ偏位
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腱の通り道である第1コンパートメントに張りつくような感触
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親指を広げると引きつれる痛み
こうした状態が確認できました。
腱が浮くと、動かすたびに摩擦が増え、炎症が続いてしまいます。
「休んでも戻りにくい」腱鞘炎でよくみられる特徴のひとつです。
■■ 2:前腕の深層筋が固まり、腱の滑走が悪い
腱の動きを妨げていたのが、前腕の深い部分の緊張でした。
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長母指外転筋の深層
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橈側手根伸筋
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橈骨と尺骨のあいだの膜(骨間膜)
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回内筋・回外筋
これらが強く張っており、腱がスムーズに動く余裕がありません。
腱鞘炎=指や手首の問題と思われがちですが、実際には 前腕のクセ が大きく関わることがあります。
日常の「ねじれ動作」「スマホの持ち方」などでも深層筋は固まりやすく、
気づかぬうちに腱の負担が蓄積します。
■■ 3:手首が“回内方向”へ固定されていた
手首の向きには、回内(内側にひねる)と回外(外側にひねる)があります。
痛みが長引いている方に多いのが、
回内方向に固定されているパターン。
この状態だと、
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親指側の腱が常に引っ張られる
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手首が外側へ逃げにくくなる
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握る動作の負担が1箇所に集中する
といった問題が起こりやすくなります。
この方も、手首の回内が強く、親指側に負荷が集中していました。
■ 整体で行ったアプローチ——痛みの“背景”を1つずつ整える
腱鞘炎の改善で大切なのは、
「痛い場所」+「痛みに向かわせている原因」 を同時に整えることです。
今回行った具体的な施術内容を紹介します。
■■ 1:腱のアライメント調整
まずは、腱の通り道を整え、摩擦を減らすアプローチから。
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第1コンパートメントの浮きを軽減
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炎症が起きやすいポイントの圧を分散
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親指の動きに合わせて、腱が自然に戻る軌道を確保
これにより「擦れる痛み」が初回から軽くなりました。
■■ 2:前腕の深層リリース(骨間膜・深層伸筋)
痛みに無意識で耐えていたため、深層部が硬くなり腱の動きが妨げられていました。
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骨間膜の癒着
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外側に張りついた腱の緊張
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回内をつくる筋の短縮
ここを丁寧に緩めることで、腱がスッと滑るようになり、
握る動作に必要な可動域が戻りやすくなります。
■■ 3:手首の回内・回外バランス調整
ねじれが解消されると、一気に負担の偏りが減ります。
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回内方向の過緊張をゆるめる
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回外の動きを確保して負担を分散
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親指の軌道を自然な位置へ誘導
痛みの出ない「握り方」ができるようになり、再発しにくい状態に近づきます。
■■ 4:肩〜肩甲骨の動きの最適化
腕は肩からぶら下がっているため、肩甲骨の動きが悪いと手首に負担が集中します。
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肩甲骨の下方回旋
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上腕骨のわずかな内巻き
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肩の上がりぐせ
このあたりを整えたところ、手首の力みが自然と抜けるように なりました。
■ 3週間の変化の流れ
● 1週目
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鋭い痛みが軽減
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握る瞬間の「ズキッ」が弱くなる
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朝のこわばりが約半分に
● 2週目
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ペンを持つ動作がラク
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買い物袋を持つ“支える動き”が可能に
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手首のねじれを感じにくくなる
● 3週目
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仕事の動作で痛みを意識しないレベルへ
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ペットボトルのフタが開けられるように
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握り込みの動作もスムーズに
痛みそのものだけでなく、使い方のクセが変わった ことが大きなポイントでした。
■ まとめ——痛む場所だけではなく、「背景」を整えると改善が進む
腱鞘炎が治らない理由として、
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腱の滑走不全
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アライメントの乱れ
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手首のねじれ(回内固定)
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前腕の深層筋の過緊張
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肩〜肩甲骨のクセ
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動作のクセ
こうした複数の要素が重なっていることが多くあります。
痛む部分だけをケアしても改善しにくいのは、
この“背景の負担”が残り続けてしまうためです。
今回のケースでは、これらを丁寧に一つずつ整えたことで、
3週間という短期間で大きな変化につながりました。
「なかなか良くならない」
「同じところがすぐ痛む」
そんな腱鞘炎こそ、整体でお役に立てることがあります。

